あんず

 かちゃかか


 とんたたかちゃとん


「ご馳走様でした。」

皿の上に茶碗とお椀を乗せ箸を持って台所に

 じゃー・・・・


水に付けておく

「じゃぁ俺、宿題有るから・・・」
透は居間を出て階段に向かう


「おぉ、ちょと待て。」

ひょこりと居間から廊下に頭だけ見せて

「何?じいちゃん、どうしたの」

「うん・・・お前に話が・・・な、有るんだが・・・時間良いか?」

「え?う・・・うん良いけど・・・」
じいちゃんが真剣な顔をして云うから、何事かと思った・・・

「あぁ・・・お前らはここに居ろよな。」
時子さんとあんずと紫蘇さんと秋乃さんは、じいちゃんの顔を見ながら
こくんと頷いた
さらさんはまだご飯を食べている。

「じ・・・じいちゃん」

 とすとすとす
 とたとたとた


 か・・・しゅ


 ざしっ・・・とん、しゅるる

俺とじいちゃん差し向かいで座布団に座る
真面目な話なんだと、正座で。
何だろう進路の話かな?
それともまだ「木隠の秘密」な話が有るのかな?

・・・なにやら重い空気が漂う

じいちゃんは落ち着かない様子で目が泳ぐ

「あ・・・あの。」


俺はたまらず声をかけた。

「ん・・・あぁ、そうだな。・・・実はまだお前に話しておかなければ
ならない話が有ってな。」

またじいちゃんの目が泳ぐ

「あんずの・・・事なんだがな。」

「あんずの話・・・」

そうか、じいちゃんが落ち着かないのはばあちゃんの事が有るからか・・・
落ち着かなかったじいちゃんの目が、俺の顔を見据える
腹が決まったようだ・・・

「実はな・・・あんずは・・・私の母だ。」




















「どうした透、固まってるぞ?」

「ちょ・・・ま・・・え・?何を云ってんの?じいちゃん」

「あんずは私の母だ、と云った。木隠家の事は以前話ただろう?」

「でも・・・え?だって・・・」
だってあんずは・・・


じいちゃんはそのまま語りだした・・・

――私の母も人としての一生を終え一旦は亡くなった・・・

  そして若返り息を吹き返した・・・
  だが、若返り過ぎた。
  私は30代前後の姿まで若返ったが、母は10代まで若返っても
  まだ止まらず・・・そう、今のあんずより幼い姿で止まった
  いままでに例が無くてな・・・

  木隠の文献の中にも記されて居ない・・・

  と思っていた。――





「思って・・・いた?」



――おそらく・・・それを見た父も気が動転していたのだろう。


  みみずがのたくった様な走り書きで、解読するのに今まで
  かかってしまったが。

  木隠の血を濃く残そうと近親婚を続けた事が有ったそうだ。
  だが血を濃くすると若返りが止まらず、止まっても幼い姿で
  しかも短命でな、その為に近親婚は禁止された。

  ・・・のだが隔世遺伝で、どうしても出てしまう時が有る様だ。
  それが・・・私の母、つまりあんずなのだ。――

「隔世遺伝・・・理科の時間に先生から聞いた事が・・・」

――ここまで若返ってしまうと抵抗力が低く病にかかり易くなって
  しまう。
  その為に何年か置きに高熱を発し何日も寝込む・・・
  それが続くと・・・死・・・とな。
  勿論それが続いて居れば一族は残っては居ない。
  だがその対処法も有る・・・
  それが・・・おそらく・・・透子が・・・――

じいちゃんは思い出したのか両手を膝に置きうな垂れてしまった・・・
「で・・・でも、そう・・・見・・見たんだよ俺はあんずの過去を・・・」

夢で・・・

「あれはあんずの記憶の中の過去夢語り、記憶の中に無い
夢語りは出来んからな。」

「じいちゃん・・・じゃぁ・・・」


――あぁ・・・私も気付いたのは最近でな。あんずは思い出しては
  いない。
  あんずが・・・母が何故外に出たのかは分からない・・・
  もしかしたら父が人間の病院に連れて行ってしまったのかも
  知れない。
  病院が母を取り違えて仕舞っていたのかも知れない・・・
  それは私には分からないが・・・な・・・――

じいちゃんはうな垂れたまま肩が小刻みに震えている・・・

「じい・・・ちゃ・・・」







  ぶふっ





「・・・・・・?」



「ぶふ?」




  ぐっぐっ



  ぶふっ




「え?な・・・何?なんの音?」



じいちゃんは肩を小刻みに震わせながら両目をぎっちり瞑っている。



カタカタカタカタ




  ぶふっ




また・・・あの音だ・・・何だろう?



カタカタカタカタカタカタカタカタ・・・



  ガタッ

奥の押入れが小刻みに揺れてた・・・


「え?なんだろ・・・」



ザザザザッ


何かが地上を這う様な音が・・・


「へ・・・蛇?」


恐る恐る俺は静かに襖を開けた・・・


「ぅあっ!!!」



押入れの床板が外されそこには見た事の有る顔が並んでいた。

「と・・・時子さん、秋乃さんにあんずっ、さらさんまで。何してるんですか?」


はたと、じいちゃんの方を振り返ると、いつの間にか
じいちゃんはヘルメットを被り、手には『大成功』と書かれた札。

「じ〜い〜ちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜ん」


「何なんだよ今のはっ!!!」


「ほんっとにもうお姉ちゃんは不安だよ。」

「時子さん?」

「透くんは騙され易くって、そんなんじゃ社会に出たら・・・」


「あっというまに追いはぎだっ」

「あんず・・・」

「透さんが追い剥ぐんですか?」

「さらさん、んな訳無いでしょう。」


「あー・・。・」


「秋乃さん、分かって無いでしょう。あれ?紫蘇さんは・・?」




   ぶふっぶぶっふっ


「え?何の音・・・」

そうだ、さっきの音。
奥の方・・・と云うか、縁台の有る出口(?)の方に転がる人影。
時子さん達の居る場所から何か引きずった様な跡。
その向こうの方から音がしていた。

ひっひっ・・・ぶふっ


「紫蘇さん・・・」


「あの子、こう云うの慣れて無いから・・・」






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